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再エネの「切り札」に暗雲

─計画どおりに進まない風力発電─


 政府は洋上風力発を再エネ(再生可能エネルギー)推進の切り札として位置づけている。ところが、その洋上風力にも暗雲が垂れ込めている。

秋田港にひしめく洋上風車=2023年6月26日、寒風山から撮影

◆三菱商事が着工先送りを決定

   ~千葉県銚子市沖~

 千葉県では、銚子市沖といすみ市沖の2か所を政府が洋上風力促進区域として指定している。

 銚子市沖では、洋上風力発電の推進に地元が一丸となってとりくんできた。地元の漁協と商工会議所、銚子市が、完成後の風車のメンテナンスなどを担う銚子協同事業オフショアウインドサービス(シーコース)を設立した。メンテナンス要員確保に向けて2024年度から地元高校生のインターンシップを実施し、25年度から新卒採用を始める計画を立てていた。

 さらに千葉県と銚子市は約48億円を投じ、メンテナンスの拠点となる名洗港(同市)の改修工事を進めている。両者はすでに計6億円以上を支出済みとのこと。政府も大きな期待を寄せていた。

 ところがである。今年2月、三菱商事が突然、大規模な洋上風力発電事業の着工先送りを決定した。三菱商事は、建設資材のコスト上昇などを受け、2024年4~12月期に522億円の減損損失を計上した。事業撤退や縮小を含め、ゼロベースで事業を再評価し、今夏までに公表する方針という。千葉県や銚子市などははしごを突然はずされた格好になった。

◆漁師たちの「待った」でストップ

   ~千葉県いすみ市沖~

 いすみ市沖でも風力発電の事業化が進まない。ここの事業化については、そもそも大きな問題が横たわっていた。大切な優良漁場がつぶされるとして漁師たちが猛反対しているからだ。

 この問題については、2023年5月発行の『JAWAN通信』143号で大きくとりあげた。記事のタイトルは「優良漁場をつぶす洋上風力発電/漁師が『待った』 千葉県いすみ市沖」である。

 候補地には磯根(沿岸の岩礁域)が広がる。海藻が生い茂る岩礁である。魚のすみかとなっている。広さは東京ドームのおよそ1800個分。日本有数の優良漁場である。風力発電の建設によってそこがつぶされると、漁師にとっては死活問題となる。そのため、候補地で漁を営んでいる鴨川市の漁師たちは猛反対している。

 政府は、風力発電設備ができることで利害関係が発生する漁業者を協議会によぶことを義務づけている。ところが、いすみ市沖の洋上風力発電事業を話しあう協議会に鴨川市漁協はよばれなかった。

 結局、予定地で漁業を営んでいる漁業者たちを協議会から排除したことに鴨川市漁協が異議を唱えたため、2022年2月の第1回協議会のあと、3年以上も協議会が開かれない。その結果、いすみ市沖での風力発電事業も足踏み状態になっている。

代港(秋田県)に乱立する洋上風力を見学するJAWANのメンバーなど。無風だったため、動いている風車は1基もなかった=2023年6月26日

JAWAN通信 No.152  2025年8月20日発行から転載