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諫早湾干拓事業の現況報告

9月5日(土)、シンポジウム「諫早を考える」が開催され、時津良治氏が「諫早湾干拓事業」の現況について報告しました。養殖アサリの大量死やアオコの発生など深刻な状況を伝え、有明海の復元のためには排水門の早期開門調査がぜひとも必要と報告しました。



諫早は今・・・・諫早湾干拓事業の現況報告

日本湿地ネットワーク会員  時津 良治

 諫早湾干拓事業は、優良な農地の造成と地域の防災機能強化を目的とされた国営土地改良事業で、平成20年3月に竣工しました。

 新干拓農地では、タマネギやジャガイモ、飼料作物などは収穫を終え、生姜やサツマイモ、ネギ、大豆などが一部で栽培されていまする。端境期の今はこれからの作付に備えての土づくりが行なわれています。雑草との戦いで、大規模農業であるがゆえに環境保全型の営農も大変のようです。

 背後地は、調整池による水位管理と排水機増設や水路拡張により、洪水時以外の常時の排水不良は改善されたものの、いまだに問題を抱えた地域が残っています。
7月初旬、日雨量100ミリを越す降雨により調整池の水位が上昇したことによって、北部排水門から大量の淡水を排水したところ、近傍でアサリの養殖を営む漁業者が、小潮の時に富栄養化した排水をされると赤潮被害が発生するとして、排水中止を求める抗議の行動をされるという事態が発生しました。これとは逆に大豆畑などが冠水した農家からは、早くに排水を求める事態となりました。
 このような事態は、小潮と大雨が重なれば当然被害が予測されるものであり、防災機能の欠陥が露呈したもので、本来は樋門の改修と排水機の増強で解決すべきものです。
 
 調整池(いさはや新池)の水質は、事業者やわが国を代表する学者による助言・提案が行なわれ、対策が行なわれていますが改善の目途はありません。
諫早湾干拓調整池水辺環境保全・創造推進会議の資料によると、21年度においては、下水道整備22億7千万円を含め、32億3千万円の事業費が費やされます。
 調整池流域の水田、畑地における肥料・農薬の半減、作物収穫後の畑地の表土流出防止のための緑肥植物(カバークロップ)の栽培、シジミ養殖による水質浄化、潮受け堤防周辺の景観悪化対策と、新干拓地で収穫された農作物への風評被害防止のため、アオコを回収除去する装置を南北排水門周辺に設置するなどの対策です。
 干陸地の環境保全に資するために、肥料や農薬を使わない畜産飼料の栽培への提供も予定されています。今年も排水門付近で有毒種のアオコ発生を確認しましたが、頻繁にゲート開けて海域に排水しているようです。
 調整池から発生するユスリカの対策として、高電圧で死滅させる電撃殺虫器も設置されました。新しい生態系が生まれつつあり、守り育てると自慢をしていますが、これも新しい生態系のはずです。ここでも不都合な真実は隠したいようです。

 諫早湾海域では、この夏も潮受け堤防の近傍ではアサリの被害が発生しました。降雨により長時間、淡水にさらされたことが原因と発表されましたが、大規模な有害赤潮の発生や貧酸素水塊の発生も確認されています。
 諫早湾のアサリだけではなく、有明海全域で、魚類を始めエビやカニ、イイダコ、マダコの漁も不振を極め、年々、資源の減少が顕著になっています。
 タイラギは、8月の潜水調査によると、生育が確認されているものの、数が少なく、今後の立ち枯れも懸念されています。

 開門調査のための環境影響評価を行なうこととされ、方法案が策定されて意見の募集が行なわれていますが、手続きに3  年とその後の対策に更なる年月が必要とされています。この間、どれだけの漁業者が生計を継続できるでしょうか。
 新しい政権が、政治主導を発揮できるのか。有明海再生のための第一歩としての開門調査と、農業と漁業も両立できる解決策の実現ができるのか、大きな関心を持ち続けると共に、提言を含めた運動を強めて行きたいものです。


潮受堤防道路(左側・調整池)


農営が始まった干拓農地


農営が始まった干拓農地


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