ラムサール条約COP11 の成果と今後の展望
〜 COP5(釧路会議)から20 年目を迎えて〜
1. ラムサール条約COP11 を振り返って
2012 年7 月、前回のCOP10(韓国昌原市、2008 年)から4 年を経て、ラムサール条約第11 回締約国会議(COP11) が開催された。
今回の日本政府代表団は外務省、環境省、そして農水省による構成だった。
日本政府は締約国会議に合わせて、新規ラムサール条約の申請を実施している。昨年は新たに9 箇所の条約湿地が登録された。
北海道の「大沼」、茨城県・栃木県、群馬県、埼玉県にまたがる「渡良瀬遊水地」、富山県の「立山弥陀ヶ原・大日平」、福井県の「中池見湿地」、愛知県の「東海丘陵湧水湿地群」、兵庫県の「円山川下流域・周辺水田」、広島県の「宮島」、熊本県の「荒尾干潟」、沖縄県の「与那覇湾」である。
環境省主催で行われた登録認定証授与式を含めたサイドイベントでは、敦賀市長、豊田市長、豊岡市長、宮古島市長、立山町長が出席し、アナダ・ティエガ事務局長より直接認定証が手渡された。また、「渡良瀬遊水地をラムサール条約登録地にする会」と「わたらせ未来基金」の代表が、それぞれ小山市、栃木市の公認NGO として認定証を受け取った。
ティエガ事務局長は2010 年に名古屋市で開催された「生物多様性条約COP10」に参加した後、東京で超党派議連「ラムサール条約登録湿地を増やす議員の会」メンバーと会って感銘を受けたと述べていた。
この数日後、会議の最中に、認定証を授与されたばかり(登録日は7 月3 日付け)の中池見湿地の登録エリアを、6 月29 日に認可された北陸新幹線ルートが通ることが地元で報道されたと伝わってきた。昼食を食べていたり、コーヒーを飲んでいるとあちこちから質問をされる。
ラムサール条約湿地には、湿地の生態学的特徴に変化を与えかねない影響に対して、国際的な注意を喚起するという目的でモントルー・レコードというリストがある。1990年にスイスのモントルーで開催されたCOP4で作られたものだ。登録の数日前にモントルー・レコード掲載要件を満たしていたなんて、世界記録じゃあないかとも言われた。
会議運営のためにボランティア等で参加しているルーマニア人がどれくらいいたかは不明だが、登録参加者数ではおそらく日本からの参加者が一番多かったと思われる。少なくとも展示ブースでは日本からのものが一番多かった。
また、会議全体のオープニングでは辻井達一さん(北海道環境財団理事長、日本湿地学会会長)が日本人としては二人目、科学部門では初めて、「ラムサール湿地保全賞」を授与された。
会議で採択された決議には、「決議7:観光、リクリエーションと湿地」のように現場での湿地保全にこれからヒントを与えてくれそうなもの、「決議10:湿地とエネルギー」、「決議14:気候変動と湿地」のように、世界的な環境問題と湿地とのつながりを理解するために重要なもの、予算や条約運営に関する事務的なものなどがあった。
COP10 からの流れで「決議5:農業と湿地の相互作用:水田と害虫管理」では日本政府も積極的に関与した(環境省野生生物課の柳谷さんが、『湿地研究』第3 巻に掲載予定の記事にこの点に関して説明している)。
特に今回は懸念材料だった、条約事務局がこれまでのようにIUCN 傘下で続けるのか、他の生物多様性関連条約のようにまとまってUNEP 傘下となるのかという議論(『JAWAN通信』No.102 関連記事参照)に、時間をとられた。
個別湿地の話が本会議でほとんど話し合われることがなく、その結果、各国のNGO からも発言の機会がなかった点は残念だ。
一方で、日本と同じアジア地域のアラブ諸国からは、「不法に占拠された領域における湿地」という文言(の挿入)について何度も提案があり、国連での議論を含めた世界情勢の影響は今後も湿地保全の議論を脅かすだろう。
会議の最後に、ウルグアイ大使が次回開催国代表として2015 年にウルグアイでCOP12 を開催することをアナウンスした。
2. 釧路会議から20 周年
国内の条約湿地の数も46 となり、50 箇所も目前となった。今後は個別湿地の保全と管理の充実、そして世界へ向けての情報発信が課題となる。
ラムサール条約の公式HP を見ると、締約国ごとに個別ラムサール条約湿地へのリンクが張られている。しかし、日本(Japan) の項を見ると、名前があるのは「厚岸湖・別寒辺牛湿原」、「宍道湖・中海」(それぞれが独立して登録されているのだが)、そして「谷津干潟」のみだ(下図参照)。
しかし、厚岸湖・別寒辺牛湿原と宍道湖・中海はリンク切れ、谷津干潟のみリンク先にサイトがある。日本ではやむを得ないだろうが、サイトは英語のみだ。
ルーマニアのCOP11 で採択された決議に個別条約湿地に関するものがあり、その付属文書1b には「優先事項として『ラムサール条約情報シート(RIS)』の更新が必要な湿地を持つ締約国」が挙げてある。
新たな9 箇所の条約湿地は登録の際に情報を提供しているので問題ないが、これまでの37 の条約湿地のうち、新しい情報シートが提供された条約湿地の数は3 箇所のみで、情報シートが古いと考えられる条約湿地の数が32 箇所となっている。充実した情報発信には湿地ごとに行政とNGO、企業の協力が必要だろう。
日本の湿地保全の転換点となったラムサール条約第5 回締約国会議が開催されてから2013 年で20 年となる。
この釧路会議の前までは、国内の条約湿地は4 箇所のみだったのだから、隔世の感がある。歴代の環境省担当者の苦労、そして何よりも全国各地の湿地を抱える自治体、そして地元住民の努力の賜物であろう。
釧路会議では国内の条約湿地(当時は登録湿地と呼んでいた)の数を一気に倍増させた。会議中に指定されたのは、琵琶湖(滋賀県)、厚岸湖・別寒辺牛湿原(北海道厚岸町)、霧多布湿原(北海道浜中町)、谷津干潟(千葉県習志野市)、片野鴨池(石川県加賀市)の5 箇所である。
いずれも今年登録から20 周年を迎えることになる。成人の日にこの原稿を書いているせいもあるが、20 年というのは地域の取り組みを総括するにはちょうどいい年月ではないかと思う。地域に湿地保全へ取り組んでいく体制が整っているかどうか、新しい問題が出てきても対応できるようになっているか、検証していきたい。
また、釧路会議でNGO 代表として唯一公式に発表の機会を与えられた、JAWAN の辻代表が総括した日本の干潟保全の問題、すなわち諌早、和白、藤前、三番瀬の問題。この中で保全の取り組みが進み、条約湿地となったのが藤前干潟だけであることは残念だ。
これだけ「環境」が叫ばれている時代にあっても、自然保護というのは何十年も前から、「総論賛成、各論反対」のままであることに愕然とする思いだ。新しい時代への突破口を作るのは、地道な努力だと信じている。
※参考
・笹木智惠子(2012)「ラムサール条約湿地『中池見湿地』〜 念願の登録実現と今後の問題点〜」『JAWAN 通信』No.103
・小林聡史(2012)「ラムサール条約ブカレスト会議に向けて」『JAWAN 通信』No.102
・柳谷牧子(2013)「ラムサール条約第11回締約国会議の内容」『湿地研究(WetlandResearch)』第3 巻(印刷中)
・古今書院『地理』2011 年7 月号:特集「ラムサール条約と琵琶湖」
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