トップ ページに 戻る

問題山積の再生エネルギー(下)

中山敏則

再生エネルギー(自然エネルギー)はさまざまな問題をかかえている。太陽光発電や風力発電は天候に左右され、非常に不安定だ。そのため、再エネをいくら増やしても原発や火力発電を減らすことはできない。CO2(二酸化炭素)の排出量も減らせない。その一方で、再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)は20兆円に迫っている。これが庶民に大きな負担となりつつある。太陽光発電は風力発電は産業や地域の振興にもつながっていない。

◆原発も火力発電もCO2排出量も減らせない

再エネの設備容量は2021年度末現在で原発82基分の約8200万kWもある(本誌前号掲載のグラフ)。しかし、昨年3月の「電力ひっ迫」では、再エネはほとんど役に立たなかった。天候がよくなかったからだ。そのため、政府はあわてて火力発電の新増設支援策を打ちだした。原発の再稼働推進や新増設、運転期間の延長も打ちだした。

それでも再エネを手放しで礼賛する論調が幅をきかせている。「自然エネルギー100%自立は十分に可能」などだ。だが、再エネが主力電源になることはありえない。それは昨年の3月と6月の「電力ひっ迫」で立証された。再エネ過信の呪縛から抜け出さなければ、再エネ推進の国民負担は拡大する一方だ。脱原発の実現も困難である。

太陽光発電や風力発電がCO2(二酸化炭素)の排出量を削減する手段なら、火力発電を減らさないと意味がない。ところが太陽光や風力のバックアップ用として火力発電が必須となっている(図1)。再エネは原発も火力発電も減らせない。化石燃料やCO2排出量は減らせない。

◆再エネの多くは捨てられている

太陽光発電は日が照っていないときは発電しない。その一方で、天気がいい日は太陽光発電がいっせいに発電し、需要を上回る。そのため、使い切れずに捨てられている。出力制御である(図2)。

出力制御は、電力が余ったさいに、太陽光や風力といった再エネの発電をやめたり出力を落としたりする制度である。電力は需要と供給を常に一致させなければ周波数が不安定になる。供給が需要を上回ると一定の周波数を保てなくなり、大規模停電が発生する。治水容量を超える大量の水が川に流れ込むと氾濫する。それと同じだ。

2018年以降、太陽光発電の出力制御が必要になるケースが増えている。捨てられる電力は今後さらに増える。経産省などの試算によると、2030年ごろには、再エネによる発電は最大で北海道は49.3%、東北は41.6%、九州は34%が捨てられる恐れがあるという(『日本経済新聞』2022年9月13日)。

◆家庭負担は拡大の一途~再エネの消費者負担額は20兆円~

再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)は電気代に上乗せして徴収されている。その事実を知る国民は少ない。一橋大学イノベーション研究センター特任講師の朝野賢司氏らは2018年3月、FIT(固定価格買い取り制度)と再エネ賦課金の認知度を調査した。すると、回答数(8096人)の半数はFIT自体の存在すら知らず、7割以上は賦課金が電気料金に上乗せされていることを認知していなかった(『WEDGE(ウェッジ)』2018年12月号)。

家庭から徴収される再エネ賦課金は毎月の電気使用量明細書に記載されている。その総額は2021年度で2兆7000億円だ。これまでの累計は20兆円に迫る(『日経産業新聞』2022年10月12日)。

再エネ賦課金は、ひと月にコーヒー1杯程度の負担で再エネ導入が進むとされていた。ところが買い取り価格の設定が非常に高かったため、太陽光発電設備の導入が爆発的に進んだ。そのため、再エネ賦課金は急激に増えつづけている。標準家庭(300kWh/月)の負担額は2022年度で年1万2420円に達する(図3)。「コーヒー1杯程度」はウソだった。消費者をだますものだった。FITの認定を受けた再エネは国が20年間固定価格で電気を買い取るため、賦課金は今後も増えつづける。朝野賢司氏の試算によれば、2050年までの累計額は69兆円に達する見込みだ(前出『WEDGE』)。その負担は消費者(庶民)に重くのしかかってくる。

再エネ賦課金はメガソーラーや風力発電による自然破壊の資金源ともなっている。

再エネ賦課金は国民や大企業が平等に負担しているのではない。電気を大量に使う大企業などは賦課金の8割以上が減免されている。その分を一般家庭や、電気を大量には使わない中小零細企業が負担している。

〈2013年度までで1916事業者、約3000事業所、約244億円分が免除された(経産省の育エネのHP)。鉄鋼、化学、金属加工、紡績、冷凍冷蔵工場などが多いが、ほとんどの農協、漁協、食品加工工場、鉄道、水道事業や下水処理などの公共事業も減免されている。その分は我々一般消費者が負担していることになる。〉(武田恵世『自然エネルギーの罠』あっぷる出版社)

あまり電気を使わない人が電気をたくさん使う大企業などの分の金を出しているのだ。こんな理不尽な話があるだろうか。まさに再エネ搾取である。ところが、この問題は国会でもとりあげられない。マスコミや消費者団体も問題にしない。再エネ過信に呪縛されているからだ。

◆期待できない産業振興~再エネ賦課金は外国企業を潤している~

風力発電は数万点の部品を使う。地域で関連産業が育つ効果への期待も大きい。人口が大きく減りつ

づけている地域ではなおさらだ。ところが主要部品はほぼ海外製である。国内での調達率は2割ほどにとどまる。「再エネ敗戦」に近い日本の姿が浮き彫りになっている(『朝日新聞』2022年5月3日)。

青森県の横浜町は下北半島の付け根に位置し、陸奥湾に面している。2022年12月15日の『毎日新聞』は、同町に建ち並ぶ巨大風車についてこう記す。記事の見出しは「風力発電 揺れた町 企業誘致も雇用につながらず」である。

〈町内には風力発電設備の専門的な施工や維持管理のノウハウを持った業者がなく、「雇用増にはつながっていない」(町の担当者)。FIT開始から10年を経た今、沖津さんの期待は落胆に変わった。「メンテナンスですらなかなか地元業者は入れず、雇用も生まれない」。最近では、住民の間で風力発電が話題に上ることもほぼなくなったという。〉

太陽光発電も同じだ。固定価格買い取り制度は国内の太陽光パネルメーカーを衰退させた。1kWhあたり40円(税込み42円)という高い買い取り価格は特需を生み、京セラなどが相次いで増産した。しかし安さと大量生産が武器の中国勢が日本市場を席巻する。太刀打ちできない日本勢は生産撤退の憂き目にあった。結果として、20兆円に迫る再エネ賦課金は中国のパネルメーカーを潤している(『日経産業新聞』2022年10月19日)。中国企業は笑いが止まらない。

国際環境経済研究所の山本隆三所長(常葉大学名誉教授)は、「再生可能エネルギーが普及すればするほど日本経済は低迷し、国民は貧困化する」と題して、次のように記している。

〈再エネ導入による産業振興は、まったく実現していない。固定価格買取制度により太陽光発電設備導入量の大きな増加はあったが、太陽光パネルの大半は中国企業が供給している。(略)2020年の世界の太陽光パネル供給量上位を占めるのは中国企業であり、ベスト10には、韓国企業が6位、米国企業が9位に辛うじてランクインしているが、残りはすべて中国企業だ。(略)風力発電設備を製造するメーカーも、市場に合わせ中国、欧州、米国メーカーが主体だ。洋上風力発電設備で中心なのは欧州メーカー、次いで中国メーカーだが、中国での洋上風力発電設備の増加にあわせ中国メーカーがシェアを伸ばしている。日本企業もかつて風力発電設備を製造していたが、いまは最近製造を開始したとする1社のみだ。これから日本で風力発電設備を導入すれば、太陽光パネルと同じく価格競争力のある中国メーカーが市場を獲得することになる可能性が高いだろう。いまから日本メーカーが再度競争に乗り出せる可能性は薄い。〉(杉山大志編著『SDGsの不都合な真実』宝島社)

月刊誌『選択』2022年7月号の「洋上風力は『利権と不正』の巣窟に」もこう指摘する。

〈太陽光発電の投資を促す名目でFIT価格を42円の高値に設定した結果、中国産の太陽光パネルが大挙して押し寄せ、シャープ、京セラは撤退、年3兆円の国民負担の一部も中国へ流れた。(略)脱炭素もデジタル化も進まないかつての経済大国、それが将来の日本の姿である。〉

◇      ◇

再エネ過信の呪縛から抜け出さないと、日本の経済はますます衰退する。自然破壊と国土荒廃も進む。

森林を伐採しまくる。海岸や浅瀬に巨大風車を乱立させる。それがどうして地球温暖化防止になるのか。気は確かか、と言いたい。

問題山積の再生エネルギー (上)◀
JAWAN通信 No.142 2023年2月10日発行から転載)