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「石垣リゾート&コミュニティー計画」を承認した沖縄県に抗議

~アンパルの自然を守る会など6団体~

「アンパルの自然を守る会」など6団体は、(株)ユニマットプレシャスの「石垣リゾート&コミュニティー計画」を沖縄県が承認したことに抗議しました。以下は抗議声明です。この計画については本誌135137138号の掲載文もご覧ください。

(山崎雅毅)

【抗議声明】

沖縄県知事 玉城デニー殿


沖縄県の(株)ユニマットプレシャスの「石垣リゾート&コミュニティー計画」承認に強く抗議します。

2022年5月

アンパルの自然を守る会        島村賢正

我がー島の自然環境を守る会      宮城信博

カンムリワシリサーチ         小林 孝

いのちと暮らしを守るオバーたちの会  山里節子

石垣島エコツーリズム協会       谷崎樹夫

八重山ネーチャーエージェンシー    高木理恵

(前文・経過報告略)

3月23、24日の新聞は、㈱ユニマットプレシャス(以下ユ社)が提出していた「石垣リゾート&コミュニティー計画」を「地域未来投資促進法」基づく「地域経済牽引事業」として沖縄県が承認したと報道しています。我々は同計画に反対し、これを承認した沖縄県および同計画を推進している石垣市、同計画の基本計画を承認している経済産業省に対して強く抗議します。

同計画は石垣島とその近海の自然を大きく損ね、経済的・文化的にも郷土の未来に大きな禍根を残します。今後、農地転用、農振除外及び市有地の山林貸与等がありますが、これらの動向を一つ一つチェックしていきます。

現時点ではユ社が提出した「地域経済牽引事業計画」(情報公開請求中)の内容を把握できていないので詳細な反対理由は後日おこないますが、これまでの経緯に照らして再度論点を明らかにしておきます。

事業計画と併せて、県知事同意に関する県庁内の稟議書、決裁書、会議メモ等の開示も請求しています。

1.ゴルフ事業は地域の経済を牽引しません。

ゴルフ事業が「地域経済牽引事業」であるということを示すには、相当無理なこじつけをしなければできません。ゴルフ人口が大きく減少傾向にあることは周知の事実で、悪名高き「リゾート法」によるゴルフ場開発が次々に破綻し、高値で売買されていた会員権が紙くず同然になったという歴史があります。35年前に制定・施行された歴史的失政と酷評されたリゾート法を適用したゴルフ事業のほとんどが破綻したのになぜ今、石垣島では「地域経済牽引事業」になるのでしょうか。同計画を入手し、地域経済牽引事業としたそのからくりを明らかにします。

2.カンムリワシ4組のペアを見殺しにしてはいけません。

予定地の森には4組のペアの国の特別天然記念物で石垣市の鳥でもあるカンムリワシが生息しています。カンムリワシの求愛行動から営巣、子育てまでの繁殖期間は2月~10月です。絶滅危惧種(ⅠA類)カンムリワシの繁殖を守るには、工事可能な期間は1年間で11月~1月のわずか3ヵ月しかありません。

ユ社の「環境影響評価」では、「カンムリワシの聴覚特性について(中略)同等の調査、研究の情報は得られなかった。営巣が確認された場合は、行動監視により影響の度合いを観察し、専門家等の助言を得て、繁殖ステージと工事に種類や期間、位置等を考慮した上で、工事の限定的中断をする。」としています。しかしカンムリワシの生息環境を脅かすのは騒音だけではありません。カンムリワシの生活圏内に樹木の伐採が迫り、重機が地響きを立てて近寄って来れば求愛行動を止め、営巣と子育てを放棄するでしょう。4組のカンムリワシが同時期に繁殖行動をとることが想定されます。彼らが繁殖を放棄すれば1羽の雛を含めて12羽のカンムリワシを危機に追いやることになります。カンムリワシ雄のテリトリーが約1㎞なので予定地全域で工事を中断しなければなりません。

今年に入ってカンムリワシの交通事故が頻発しています。前勢岳の4組のカンムリワシのペアが追い出される事態は絶対に避けなければならない状況です。石垣島全体のカンムリワシが種として維持される緊急措置が必須です。沖縄県はそのために必要な措置、対策を早急にとるべきです。

石垣島で長年調査を続けており、カンムリワシの生態に精通しているカンムリワシリサーチ等、地元の「専門家の見解と助言」が尊重されなければなりません。

3.光害からヤエヤマホタルの名所と星空を守らなければなりません。

前勢岳が多くの住民や観光客が訪れるヤエヤマホタルの名勝地であることはよく知られています。そこに350室以上のホテル群も建設されます。窓からの光を完全に遮断することは不可能で、加えて街灯や来客者の自動車の強力な照明はわずかな光を嫌うヤエヤマホタルに壊滅的な被害をもたらすでしょう。ホタルのような小さな生き物のことをないがしろにする開発計画はよくあることだと言って無視することはできません。

また、近接する石垣島天文台への光の影響も心配されますが、天文台と協議したという報告もありません。本市が誇る日本初の「星空保護区」の評価・評判を損ねて星空ツーリズム等、観光業にも悪影響を及ぼすことになります。

4.生態系を破壊する危険な地下水の大量くみ上げを止めなければなりません。

本リゾート計画は飲用水やプール用水等の大半を地下水に依存します。「環境影響評価」では、「地下水の状態を把握し変動を確実に予測することは不可能な為、継続的な揚水により生態系に及ぼす可能性は否定できない。」としています。生態系に与える影響を回避できないと事業者自身が認識している事業を認可することは全く理解できません。さらにユ社は2027年度の石垣市の水道事業見直しに際して配水量の増加を要望していることから、事業の継続を大量の地下水だのみであることの危険性を承知しているのです。地下水くみ上げ予定地の地下の不透水層が海水準面以下にあることから、早晩海水が浸透してきて地下水の塩水化を招くことも、ユ社は認識していると思われます。最も重要なことは大量の地下水くみ上げによってもたらされる生態系への影響について具体的な評価を全くしていないことです。とりわけ地表水のみならず湧水にも依存するアンパルや名蔵湾の生物の実態調査は実施されていないことから、大量の地下水くみ上げがそれら生物へ及ぼす影響が明らかにされていません。この影響調査は数年かけて綿密に行うことが必須ですが、ユ社にそのような調査能力がないことは明白です。国や県の実態調査もアンパルのラムサール条約登録前に実施されて以降10年以上未実施であり、地下水大量くみ上げの影響が判明しない中での「承認」は全く不当なものです。

5.農薬の使用は希少種やサンゴをはじめすべての生物へ必ず悪影響を及ぼします。ゴルフ場は無農薬でもできます。

ウガドゥカーラの沢をはじめ開発予定地とその周辺の沢には「キバラヨシノボリ」や「タウナギ」などの希少種が生息していることは魚類学会や地元の研究者によって明らかにされています。石垣市の「ゴルフ場建設事前指導要綱」は、以前の「無農薬」規定が削除されて農薬使用容認に改悪されています。世界には無農薬で運営されているゴルフ場もあることから、石垣市は無農薬の指導要綱に戻すべきです。開発予定地の主に牧草地や林地では農薬を使っていませんでした。ゴルフ場やホテルの植栽管理に農薬を使うことは、希少種をはじめとする動植物を減少と絶滅に追いやる危険性を増大させます。さらに、アンパルの多様な生き物、奇跡の海・名蔵湾の沈水カルストで生き延びているサンゴ群落とその海域で暮らす魚介類などへの農薬の影響も調査されていません。農薬の影響は避けることができない調査です。

以上2~5の主な論点は沈水カルストの件を除き、ユ社の「環境影響評価」に対する沖縄県の「知事意見書」にも記載されている厳しい指摘です。それにもかかわらず沖縄県が本事業を承認する根拠は全く不当なものであるといえます。

6.前勢岳北斜面の景観を著しく損なう中高層ビルや戸建てビラ、ゴルフコースは要りません。

開発予定地は、石垣市風景づくり条例で保護される景観地区ではありません。しかし、名蔵集落やアンパル、名蔵湾、崎枝集落など北方から見た前勢岳の北斜面は、9、10階建てビルや戸建てビラ、ゴルフコース等でその景観が著しく害されます。浜下りなどでアンパルや名蔵湾に下り立った地元住民にも愛され慣れ親しんできた前勢岳北斜面の風景が汚されます。世界的景勝地・川平湾を堪能してきた観光客が帰路に目にする美しい前勢岳北斜面の風景が、これらの人工的な構造物によって汚されてはなりません。ユ社は市民や観光客に対して、同計画完成後の立体モデルを提示して景観に関するアンケートを実施すべきでしたが、それすらもしていません。

7.法的措置や沖縄県に行政不服審査請求をします。カンムリワシたちも工事撤退を求めています。

我々はこれまで本計画がアンパルや名蔵湾、石垣島に甚大な自然破壊をもたらすことを警告してきました。今後本計画が強行されるのであれば「法的措置」も選択肢にせざるを得ません。

石垣市や沖縄県内の各支援団体、ならびにWWFジャパンや日本野鳥の会等と連携して、石垣市民・八重山郡民・県民の皆様へ関連する情報お届けしながら、アンパルおよび名蔵湾の自然とそこに生育・生息する野生生物を守るために必要な方策・措置を引き続き講じていきます。


JAWAN通信 No.139 2022年5月20日発行から転載)